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キホンのお酒事典

~しまのみ的 九州のお酒文化ガイド~

山深い冷地に、南国のように温暖な海の街まで。
「九州・沖縄」と括るには、あまりにも豊かに広がる各県の個性とともに、お酒もまた、それぞれの風土に合わせて味と姿を変えてきました。
冬場の寒さが造る北部九州の日本酒、気候柔らかな南部九州の焼酎、歴史が紡いだ泡盛…
そんな、より取り見取りの美味しいお酒、九州・沖縄のお酒事情をご紹介します。

長崎

長崎のお酒たんじょう史

江戸時代、日本唯一の国際港として中国大陸やヨーロッパ諸国の文化と交わり合いながら、食文化にも独自のスタイルを築いてきた長崎。この地で育まれ、現代にも息づくお酒文化においても、伝統を紡ぎながら、新たなお酒も果敢に取り入れていく、長崎らしい気質が現れています。
そのなかでも長崎のお酒として有名なのが、麦焼酎発祥の地である壱岐島(いきのしま)の「壱岐焼酎」。古代から行われてきた大陸・朝鮮半島との交流のなかで伝わった蒸留技術と、肥沃な大地で盛んに栽培されてきた麦を原料に、16世紀ごろから造られはじめたお酒です。香ばしい麦の香りと、米麹のほんのりとした甘みに富む焼酎は、優れた特質を持つ産品にだけ認められる、世界貿易機関(WTO)による「産地呼称」の指定を受け、世界的ブランドとして、その存在を確立しています。

長崎のお酒文化

焼酎のほかにも、長崎は日本酒造りが盛んな佐賀県に隣接する地域に日本酒蔵が点在していたり、鎖国時代にオランダからやってきたビールが日本で初めて醸造されたり、近年では地域の風土を生かした新たなクラフトビール醸造所やジン蒸溜所が誕生し、話題となった場所としても知られ、いまも昔も、多様性を認め合い、隣り合うことを楽しむ文化が根付いています。
三方を囲む港で水揚げされる、五島灘の荒波で育った新鮮な海鮮はじっくり壱岐焼酎と、長崎人のおもてなしの心がこもる卓袱(しっぽく)料理に欠かせない、脂身とろける角煮や島育ちの壱岐牛は、島生まれの爽やかな洋酒やビールと、長崎名産のウニやカラスミ、長崎おでんは端麗な日本酒と…心が旅する美味な食卓は、今夜も長崎のどこかで華を咲かせています。

熊本

熊本のお酒たんじょう史

九州山系の深い山々にいだかれ、多くの火山も活発に活動する「火の国」熊本。一方、そんな山々にはたっぷりと雨が降り注ぎ、貯留に優れた大地がその雨を受け止めることから、豊富な地下水に満ちる熊本は「水の国」とも呼ばれています。湧水源は1000カ所以上、大きな河川が街を通り、全国でも有数の名水が集う熊本の人々は、この水とともに古来から生き、潤いある文化と暮らしを紡いできました。
なかでも、お酒の文化に強く繋がっているのが、豊富で清らかな水を生かした米作り。西日本有数の米所に実る、美味しいお米からは「米焼酎」や「日本酒」が造られてきました。とりわけ人吉球磨地方で16世紀ごろから造られる米焼酎「球磨焼酎」は、本土で最初に作られた焼酎とされ、世界貿易機関(WTO)にも産地指定銘柄として認められた、県民が誇りとするお酒です。

熊本のお酒文化

日本三大急流の一つ、おおらかにかがやく球磨川の清流に育まれ、200銘柄以上のバリエーションに富む極上の球磨焼酎、吟醸酒造りに最適な「熊本酵母」、酒造りに適したオリジナル酒米「華錦」が開発、使用されるなど、個性ある銘柄が造られる日本酒-。やはり、水と米が生きるお酒が美味しい熊本のお酒には、ごはんにもよく合うメニューが欠かせません。
味噌や阿蘇高菜漬けなど発酵食品を使った料理、手づかみで骨付き肉にかぶりつく豪快な郷土料理「骨かじり」、全国でも上位の生産量を誇る名産、れんこんを使った伝統の「からし蓮根」、王道は薄切り肉にたまねぎやおろししょうが、にんにくを添えて、甘口醤油でいただく「馬刺し」といったところ。大地の力強さと旨味を感じる食卓では、箸とグラスが休み知らずです。

鹿児島

鹿児島のお酒たんじょう史

薩摩(現 鹿児島周辺)は、水はけがよく養分を溜め込まない火山噴出物からなるシラス台地が広がり、台風が常に通る土地柄のため、昔から米作りには不向きな場所でした。米が貴重なうえに、温暖で清酒造りには向かない薩摩の地ではありましたが、ヨーロッパ、東南アジア、琉球を経て1600年代ごろに種子島に伝来したサツマイモが、鹿児島の、そして九州のお酒文化を大きく変えることになります。
痩せ地に適し、日照りや台風にも強いサツマイモはこの地で盛んに栽培されるようになり、また飢饉の救世主としても、薩摩から全国に広まります。このころに誕生したと考えられるのが「芋焼酎」です。以来、戦後に誕生した奄美大島のみで生産される黒糖生まれの「黒糖焼酎」とともに生産を広げ、本格焼酎の消費量も日本一の焼酎王国となりました。

鹿児島のお酒文化

鹿児島で「酒」と言えば、日本酒ではなく焼酎のことを、「疲れを癒やす」という意味を持つ方言「だいやめ」「だれやめ」は、晩酌のことを指します。そんな鹿児島の人々の心を映す言葉からは、暮らしのなかに欠かせない友となった焼酎の存在がうかがえます。親しい人々とお酒を酌み交わしながら、無事に送ることができた一日に感謝し、リフレッシュして翌る日を迎える。明日の糧として深く愛される「薩摩焼酎」は現在、鹿児島県内の100を超える蔵元により造られ、全国トップクラスの生産量を打ち出しています。
サツマイモの香りに富む薩摩焼酎を味わうなら、新鮮な地鶏が手に入りやすい鹿児島で親しまれる地鶏の鶏刺し、名物の黒豚料理、特産のキビナゴの酢味噌あえなどとぜひ。ほぐした鶏と具材をのせて、鶏ガラスープでいただく「鶏飯(けいはん)」のシメは、明日を生きる心に元気を授けてくれます。

沖縄

沖縄のお酒たんじょう史

日本の蒸留酒のルーツ、泡盛。焼酎よりも歴史が深い泡盛は、1400年代に琉球王朝が行なっていた、中国・東南アジアとの交易を通じて入手していた蒸留酒の存在をきっかけに誕生しました。先人たちは、シャム(現 タイ)の蒸留酒から蒸留技術を得て、同じく持ち込まれたタイ米を原材料に独自のお酒を創り出したのです。特徴的に、発酵材料として「黒麹菌」を使った泡盛はやがて、貿易を行うアジア諸国への貢ぎ物として珍重されるようになり、外交上、重要な品として扱われるようになります。
そのため17世紀ごろには、琉球王府は首里(現 那覇市首里)の、製造を許可した家以外での酒造りを禁止、泡盛は厳格な管理下に置かれました。しかし、明治以降には民間でも製造ができるようになり、現在は県内47の酒造所により、個性豊かな泡盛造りが行われています。

沖縄のお酒文化

泡盛は常に沖縄の人々の間にあり、いまを生きる人、生きてきた人とを繋ぐ大切な役割を果たしています。独特の文化や風習が残る沖縄の泡盛には、他県と比べても稀であり、また血の通ったあたたかな性格が与えられているのです。
泡盛は、県民の日々の楽しみであるのみならず、神聖な祭礼などの伝統行事では神々や先祖に、健やかに迎える成人の日が祈られる生まれたての子どもに、人生をともにする仲間たちに捧げられます。例えば、赤ちゃんが生まれた時に泡盛を仕込み、家族と大切な日を祝う風習や、宮古島独自の大衆文化、お酒を仲間と回し飲む「オトーリ」などに、その姿を見ることができます。お祝いや客人に振る舞われる豚料理「ラフテー」、家庭で親しまれてきた「ミミガーさしみ」や「足ティビチ」など、誰かと笑い合う声が聞こえる、情味ある郷土料理が泡盛にはお似合いです。